前回の記事の続きです。
前回をまとめると、自分は自分でホルモン剤を入手しトランスを進めてしまったが、ここでは勧められない、ガイドラインにできるだけ沿ってほしいということでした。
なぜガイドラインに沿ってほしいのかここで解説します。
ガイドラインとは性同一性障害の診断を進めていく上で定められた手順のことです。ガイドラインの全ては性同一性障害に関する診断と治療のガイドライン(第 4 版) で読めます。
ざっくり言うと
- まずジェンダークリニック(精神科)に行ってほしい
- ホルモン治療1をして変更をした体は戻せない
- 一生使い続ける唯一の体だからしっかり悩んでほしい
- 戸籍変更をした人が戸籍の性別を戻した裁判があった
性同一性障害と診断され戸籍の性別を変更した人が、「変更は誤りだった」として取り消しを求めた裁判手続きで、西日本の家裁が、性別を戻す訴えを認める判断をしていたことが分かった。(中略)
申立人はタイで性別適合手術を受けた。同年に性別の変更を家裁に申し立てをし認められた。
だがその後、「生活の混乱の中で思い込んでしまったが誤りだった」と後悔するようになり、日常生活も元の性別で送るようになった。変更の取り消しを求めて家裁に申し立てをした。家裁は誤診を認め、変更を認めた審判を取り消した。(一部要約)
性別変更の取り消し、家裁が認める 医師「誤診した」: 朝日新聞
また、このニュースに関しては興味深い考察がありますので、気になる方は読んでみてください。「誤診」?-トランス完了したトランスジェンダーを精神科医は診断出来るか?~性別変更取消にまつわる問題点について
ここまでなぜ自分でホルモン剤を買ってトランスを進めたり、国内での診断を得ずに海外でSRS(性別適合手術)をしたりすることをおすすめしないかというと理由は2つあります。
その1。体を変えたいと思ったり、性嫌悪であったりするのはGID(性同一性障害)だからではない場合もあるからです。たとえば、実はDID(解離性同一性障害)2で別人格が現れてその別人格が生まれた性別と違う性別の人格だった場合が挙げられます。
その2。ぶっちゃけると、戸籍上の性別や名前の変更のために戸籍をいじる手前までは自分で全部できます。できちゃうのです。ネットが発達した時代だから調べればいろいろ出てくる。そして金さえあれば金の暴力でタイに渡ってSRSだってできる。
たぶん、それをどうやるかを書いたノウハウの記事のほうが需要あるだろうし、知りたい人も多いと思う。だから、だからこそ病院に通ってRLT3を積み重ねてガイドラインに基本的には沿うような形で進めてほしいなぁとおもうのです。
自分の場合、たまたまGIDの確定診断が降りる前に自分でクロスホルモン1を始めて後悔なくここまでこられていますが、不特定多数の人にその人の個別の状況を知らない状態で4、むやみに同じことをすることは勧められません。そのほうが多くの人にとっては後悔の少ない形になるはずなので、こういう形にしました。
ガイドラインに沿って進めていくことは、医学的に他の原因でないことを明らかにする目的があります。しかし個人的にはこのまま性別移行を進めていいのか確かめるRLT3の一部だとも感じています。
過去を振り返ったり各種検査を受けたりその結果を聞いたりして身体的には自認と違うのだと言うことを改めて突きつけられたりすることで、自分は覚悟や、やっぱり男ではないという気持ちを新たに固めていくことができました。
だから、できれば、できるだけ、すっ飛ばしてほしくないのです。
どうやってGIDの診断が進んでいくの?
ガイドラインに沿って進めた場合、以下のような流れでGIDの診断が進んでいきます。進んでいくに従って指示があると思うのでそれに従っていく形になります。
- 自分史を書く
- 心理テスト等を受けながら、除外診断を進める
- 血液検査(性染色体検査)を受ける
- 外性器(MTF・FTM両方)、内性器(FTMの場合のみ)の検査を受ける
- 1名目の医者の診断が確定する
- 2名目の医者も1名目の診断に同意する
- GIDの診断が確定し、ホルモン治療を始められる
1の自分史とはみなさんが読んでいただいている、この記事のようなものです。過去にあったことを時系列順に整理しながら、書き出していきます。
3の性染色体検査とは遺伝レベルで異常が起きていないか確認します。詳しくはGIDのための染色体検査結果の見方に譲ります。3割負担で1万円かかります。
4の外性器・内性器の検査は、すごく嫌だし恥ずかしいけど、医者の前で性器を見せます。そして触診などをうけ、性器がどちらの性別なのか判別します。まれに半陰陽(性分化疾患)のケースがあるのでそれの除外診断です。
まとめ
ということで、性別に悩みがあったり性嫌悪で悩んでいたりして、体を変えたいとまで思うようになったり、あるいはそういった事を原因として自傷をしたりするようだったら、まず病院に行きましょう。
風邪を治すようなものです。気にせず精神科を訪れてみてください。適切に性別移行を進められるようにガイドしてくれるはずです。
性同一性障害(性別違和)の診断をできる病院は記事を書いた現段階で、全国に18箇所です。詳しくはGID(性同一性障害)学会 認定医一覧 を参照してください。
18箇所しかないのでこれ以外にも近くの精神科を訪れて相談してみて、その後専門的なところという意味でGID学会認定医のところを訪れてみるのもいいかも知れません。
脚注
- クロスホルモンとは、生まれた性別と違うホルモンを外から補充する事によって、体を自認に合わせていく方法です。ホルモン療法、クロスホルモンクロスホルモンともいわれます。 ↩ ↩
- DIDとは解離性同一性障害のことでこれについては、人格解離研究所が参考になります。ややショッキングですが、DIDについての実態については【実録二重人格】主人格うさと裏人格Hydeの会話 DIDがわかりやすかったです。 ↩
- RLTとは、リアルライフテストのこと。望む性別(外見)で、現実的な範囲でできる限り実際に生活を重ねていくことで、その性別で生きていけるか確かめていくこと。過酷にしてこれが性別移行期のすべて。二度とやりたくない。 ↩ ↩
- もちろん例外もあります。詳しくは「誤診」?-トランス完了したトランスジェンダーを精神科医は診断出来るか?~性別変更取消にまつわる問題点についての「※1 診断過程をすっ飛ばすトランスジェンダー」を参照してください ↩