性同一性障害(≒トランスジェンダー)の当事者から、自分がトランスジェンダーであると打ち明けられた時、どうしたらいいか迷うかも知れません。そんな時、これを読めばきっと解決するだろうと思い書き始めました。
MTF(男から女)の当事者である赤林檎が書きますが、できるだけ非当事者の人でもわかりやすい言葉でまとめて書きますので読んでいただければ幸いです。
ざっくり言うと
- アウティングをしないでください
- だれに・なにを・どこまで・いつまで伝えていいのか当事者とよく話をしてください
- 性別移行の進み具合人の考えは人によって違うので画一的な扱いをしないでください
- 出生時に割り当てられた性別や性自認に関する情報は個人情報の中でも特にトップシークレットです
目次
用語集
これらの知識があるとこの記事を読むのが楽になると思います。よくわからなかったらとりあえずここはすっ飛ばしてください。
- 性自認(gender identity)
- 自分が女性又は男性であるか、その中間であるか、そのどち らでもないか、流動的であるか等の自らの性に対する自己認識のこと1
- 性別違和(gender dysphoria)
- 性自認と出生時に割り当てられた性別の食い違いによって起こされた不快感や苦悩のこと2
- 性別移行(Transition)
- 出生時に割り当てられた性別から自認する性別に移行すること。トランスするともいう。
- カミングアウト
- これまで公にしていなかった、出生時に割り当てられた性別や性自認等を打ち明けること
- アウティング
- 出生時に割り当てられた性別や性自認等を他者が本人の意に反して、勝手に話した人以外の他の人に公表すること。噂話などをすること。
- 埋没(stealth)
- 生まれた時に割り当てられた性別であることを知られずに生活すること。すなわち、MTFならほぼ完全に女性として、FTMなら完全にほぼ男性として生活をすること。
アウティングとは
アウティングとは先程用語集も述べたとおり、要するに人の秘密を勝手に喋ってしまうことです。それはこれまで長い時間をかけて培ってきた信用を一瞬で無に帰すことに繋がります。
たとえばアダルトグッズを買ったという秘密をバラされるのとアウティングの違うところは、生活がかかっているかどうかという点があります。特に埋没済みの人だと転職をしたり引っ越しをしたりして、完全に痕跡を残らない状態で蒸発するぐらいの勢いで生活を変えないと生活をすることが非常に困難になります。
もしも戸籍を変えて完全に埋没をして、自認する性別として完全に生活をしている時にアウティングをされた場合、それはトランスジェンダー当事者にとって生活基盤に直撃する一大事になります。引っ越し・職を失う等による金銭的ダメージの他に友人関係も一から全て構築し直さなければならないかもしれません。
なぜそこまでの出来事にになるのか。それは出生時に割り当てられた性別と、現在生活をしている性別が違うということがどうしても受け入れられなかったり、あるいは自分が責任を負いたくないからと周りと同調して排他をするという事があるからです。特に年配の方にその傾向がある気がします。
皆が皆、その事実を知った時に100%間違えなくヘイトスピーチをされたり差別的な扱い、たとえばアリさん引越社のシュレッダー係のような事件になったりすることが無ければいいのですが、そうなると言える確証はどこにもありません。人の数だけ考えはあり反応も違うはずです。何度でも言います。生活がかかっていることです。確率的に可能性が低い方に賭けることはできません。
ここまで読んでもいまいち実感がわかず、「信用してない人には話さないし、ただの噂話程度じゃない、大げさな」そう思った方がいるかもしれません。でも、少なくとも自分はこう思います。
- 信用してない人には話さない
- 自分の知らない相手が、また他の他人に話さないとは限らない
- あなたを信用していないわけではないけど、だからといって生活は賭けられない
- ただの噂話
- 何度でも繰り返しますが、生活がかかっている話です。軽い気持ちで情報を流してしまうと当事者の生活も、あなたとの信頼関係も取り返しがつかなくなります。
バイト先で実際にアウティングされた体験
この体験談に限っては埋没生活に影響が出ないよう、個人の特定を防ぐためある程度脚色済み・フェイク混じりです。ご了承ください。
自分が勤めていた小規模なバイト先でアウティングされたことがあります。この件はその時に自分がすっかり埋没して平和な生活をしていたため、アウティングという概念自体を自分が忘れていて、伝えられなかったことが原因の一つではありました。
一番最初の情報源はもちろん自分で、自分がトランスジェンダーであるという情報は、面接の時に戸籍と外見が異なるためめんどくさいことが起こると嫌だなと思って致し方なく面接時に伝えました。それが知らない間に勤め先全員にアウティングをされ悲惨な状況になってしまい、結局バイトを辞めることになりました。
そのアウティングをした人と少し話してわかったのが決して悪気ではなかったようです。トランスに関する悩み事や今まで苦労してきた事、働く上での辛さ、言葉遣いで気をつけること、バイト先全員で理解して少しでも理解したり共感できるようにしようということだったらしいです。
親切な人はそのような姿勢を心がけることを大事にしていると思います。
しかし、性別移行がほぼ完了しあとは性別適合手術を受けて完全に埋没するだけの寸前の人には、そういう姿勢はすごく邪魔です。正直、とてもありがた迷惑で余計なお世話でした。なぜなら、すでに性別移行をする対象の性別であるという自己肯定感はついているため、他人に共感してもらい自己肯定感を補ったり育てる必要性がないからです。
自分は自己肯定感という内面の問題はもう通り越していて、どこでどう生活しても、望みの性別として生活ができています。用語集で性違和のことを性自認と出生時に割り当てられた性別の食い違いによって起こされた不快感や苦悩のこと
と書きました。すでにその苦悩や不快感はほとんど解消されているため、余計なお世話だったわけです。
親切心だった故に、強く言えず、しかしこうなった以上は撤退せざるを得ずいいバイト先だったゆえに悲しい体験でした。
条例としてアウティングを禁止している国立市
参考までに条例としてアウティングを禁止している例を挙げます。条例として制定されており国立市は当然、市・市民・教育関係者・事業者までに効力が及んでいます。ただし、努力義務であり違反した場合の罰則規定はありません。
参考: 国立市女性と男性及び多様な性の平等参画を推進する条例
まとめ
一言で言うと、これです。もう、絶対がはみ出るぐらい大きく表現してもまだ足りないという実感です。
セクシャルマイノリティに限った話ではありません。秘密は秘密です。ただ、それだけの話し。信頼関係で結ばったからこそ、話した話です。