こんにちは、MTFトランスセクシャルの『伊豆産蜜柑』です。
先日、タイのガモンホスピタルで性転換手術(SRS・性別適合手術)を受けてきました。アテンドなしで術式は陰嚢反転法です。今回は、『入院生活編(前編)』と題して性転換手術当日〜入院3日目までの実体験レポをお届けします。
ガモンホスピタル 性別適合手術ガイドブックシリーズ一覧
目次
SRS当日
この日は朝8時ごろ目が覚めました。
朝6時以降は一切の飲食禁止と指示があったため、この時点で何も食べることができません。(水も飲んではダメ)
この時点では自分が間もなくSRSを受けるという実感に乏しく、いつものようにTwitterで他愛もない呟きを投稿して遊んでいました。仕事で出張に来たのかなーくらいの感覚だったように思います。
そうこうしているうちに、はるみさんから『10時ごろ迎えに行きます』と連絡が入り、一気に緊張モードに。
SRS後は5日間ほどシャワーを浴びることができないと聞いていたので、念入りにシャワーして全身のムダ毛をしっかり処理しておきました。
ほどなくしてはるみさんと看護師の方が部屋にやってきて、血圧測定、陰部の剃毛、生理食塩水の浣腸をされました。ものすごくお腹痛くなって冷や汗が流れる…
この後本当に最後のシャワーを浴びて入院着に着替えます。

アパートメントのシャワー室はこのようになっています。シャンプー・コンディショナー…と、聞き慣れない『シャワージェル』なる名称の液体が備え付けてあります。私はボディーソープの代わりに使用しました。シャワーから上がったところで『手術は14時スタートだからね』とはるみさん。あと3時間か…
LINEでパートナーに行ってきますの連絡をしました。『I'll be back...』とはこういう時に使うんだな。うんきっとそうだ。
待っている間の時間の感覚は鉛のように重く、頭の中がやや錯乱気味でした。次にはるみさんが呼びに来た時がいよいよその時だ…麻酔で眠ったきり二度と目が覚めなかったりしたらどうしよう、そんなの嫌だ、生きたい、生きて帰りたい…
予定よりも早く、13時前にはるみさんが呼びに来ました。手の甲に点滴を繋がれ、車椅子に乗って手術室のある4階に運ばれます。この時点でSRS前最後のTwitter更新。『いってきます。』
手術室前ではるみさんが写真を撮ってくれましたが、緊張のあまり頭の中が真っ白でそれどころではありませんでした。ここからストレッチャーに乗せられ手術室の中に。
手術台に移り、両手を背中側で拘束されます。それと並行して体のいろんな箇所にモニターが取り付けられます。『リラックスネー』と声を掛けられますが、ここでリラックスできる人はたぶんいないんじゃないかなと思います。トランス開始からここに至るまでのいろんな出来事を思い出していました。
はるみさんが『手術の様子撮っといたげようか?w』とドSぶりを発揮してきますが、黙って頭を横に振るのが精一杯でした。
酸素マスクが付けられ、『深呼吸してー』の合図。この後30秒くらいで眠っちゃうらしい。意識を失う直前に横目で見た壁のデジタル時計は13時24分を示していました。
SRS終了〜リカバリールーム
意識が戻るや否や、猛烈な寒気と痺れと尿意、下腹部の痛みが襲ってきました。傷が出来た痛みというよりは、ものすごく激しい腹痛のようなものに感じました。あまりの痛さに助けを求めようにも、脳からの司令がシャットアウトされたかのように体がまったく動かずひたすら耐えることしか出来ません。
何となく動けるなと思った頃に目を開けると、薄暗い部屋の中にいるようでした。視界すべてがモノクロのようにも見え、まるで死後の世界にいるような感覚になりました。
看護師さんが近づいてきたので、痛みを伝えなきゃ!と思い、『痛い…pain...hurt...』などと何とか声に出すと痛み止めのモルヒネが点滴から投与されたようで多少ラクになりました。時刻を聞くと、だいたい(夜の)10時ごろだよと英語で答えてくれました。
その後はいつの間にか意識が飛んでいて、しばらくすると激痛で目が覚めるのでモルヒネを入れてもらう…のローテーションでした。意識があると常に痛いため、いくらか寝ている時間があったのは幸いだったかもしれません。この時はいよいよ下腹部の突起が取れたんだなどと思う余裕はまったくありませんでした。
入院1日目
朝の5時過ぎにリカバリールームから入院部屋に移されました。
ストレッチャーからベッドへの移動をスライド板を使って行うのですが、体を持ち上げようと少しでも力を入れると患部に激痛が走るため、この移動が非常につらかったです。
ベッドへの移動後はすぐに朝食が運ばれてきました。

朝食のコーンスープ。SRS後初めての食事です。
ベッドのリモコンを操作し上体を起こすのですが、患部に体重がかかり下腹部にずしーんとした鈍痛が襲ってきます。力を抜いたとたんに股間から内臓がドバドバっと全部溢れ出てきそうな感覚です。友人の純女さん曰く『生理痛と陣痛が同時に来てるような印象だね』とのことでした。そんな状態なのでスプーンを口に運ぶのも至難の業です。完食できたもののゆっくり味わっている余裕はなく、作業感の強い食事でした。
再び横になりスマホを取り出し、Twitterに『女の子になったのかっ!!?』などとおちゃらけた投稿をします。たくさんの人が『おかえりなさい。』と返してくれました。とても嬉しかったです。
術後は患部が浮腫むのを防ぐためにたくさん水を飲む必要があるそうで、目の前にあるガモンのロゴ入り飲料水をひたすら飲み続けます。たくさん飲んで尿意がきても尿カテーテルが繋がっているため勝手に排出されていきます。安心して500mlペットボトル2本分を飲み干しました。
しばらく休んでいると看護師さんがやってきて、体の清拭と着替えをしてくれました。入院着の袖から腕を抜いて背中を浮かせたりする必要があったりでまた激痛との戦い…着替え終わるだけで汗びっしょり体ぐったりになります。カタコトの英語と、日本語の『イタイ』『チョット』『スゴク』などの単語を駆使してなんとか意思疎通を図りました。
午前10時ごろになると患部の消毒のため4、5人もの看護師さんとはるみさんが入室してきました。患部を覆っているガーゼを剥がし、消毒液に浸したコットンと綿棒で患部周辺を拭き取り→消毒液を患部にかける→抗生軟膏を塗る→ガーゼとナプキンをつける、というもの。消毒作業の横で看護師さんが鼻歌を歌ったり談笑していたりで、これがタイのマイペンライ精神か…と少し微笑ましく感じました。
この消毒の手順ですが、後々行うことになるダイレーション前後の消毒とやり方がほぼ同じです。余裕があれば看護師さんの動きをよく観察しておくと、ダイレーションを自分で行うようになった時にスムーズに進められると思います。
この時はるみさんが『ついに取れちゃったね!出来たものの写真撮ってあげようか?』と言うので、恐る恐るカメラを起動しスマホを渡すや否や、嬉々として私の下腹部を激写し始めるはるみさん。
『はい、これが手術翌日の状態。』と返されたスマホの画面には、血だらけのガーゼを縫い付けられ封をされた女性器らしきものの写真がありました。
続いてガモン先生がやってきて、自身の手で造り出したであろう私の女性器をまじまじと観察したかと思うと親指を立てて満面の笑みで『COOL!!』と発言し去っていきました。楽しい先生だ…w
11時45分になると昼食が運ばれてきました。お肉入りの雑炊です。

個人的な感覚では餃子の王将の天津飯についてくるスープのような味で美味しかったです。体を起こすのはまだとても痛いですが、こちらもなんとか完食できました。
その後はベッドの上に横たわりながらTwitterを眺めていました。定期的に患部の痛みが強くなるため、耐えられなくなったらナースコールを押してモルヒネを投与してもらいながらひたすら痛みをやり過ごします。体が痛くなっても寝返りを打つことも出来ず、拷問のような時間でした。
15時前になると謎の小箱が私の目の前に届けられました。

開けてみるとおやつのロールケーキ+ジュースとご対面。SRS後からずっとガモンウォーターしか飲んでいなかったため、真っ先にジュースに飛びつきました。
おやつのロールケーキを食べ終わって間もなく、午後の消毒の時間です。この時ははるみさん不在で、朝と同じように看護師さんに患部の消毒をしてもらいました。
17時45分、晩ご飯の時間です。SRS前日に歩いて行ったショッピングモール内にある『やよい軒』のにゅうめんが届けられました。
この頃から熱が上がり始めていて起き上がるのがしんどい状態だったため、1時間ほど経過してからの食べ始めになり、完食することもできませんでした。まだ通常食は厳しいみたい。
夕食が終わってベッドでいろいろ体勢を変えることにチャレンジしていると、うっかり点滴のチューブを引っ張ってしまい、針先だけ残してチューブが抜けてしまいました。すぐにナースコールを押しましたが看護師さんはなかなか来てくれず、その間に私の手の甲に刺さったままの針先から夥しい量の血が流れだしてきて私の腕を伝い、ベッドシーツや床に真っ赤な染みを作り出します。半ばパニックになりながらもう片方の手で必死に腕を握り締めて圧迫していると、ようやく看護師さんが駆けつけてくれて点滴の針を入れ直してくれました。ほんの10分ほどの出来事でしたが、この間は生きた心地がしませんでした。
この後看護師さんが血圧計を持って入室。血圧測定をされます。その間に検温も。いずれも一瞬で終了しました。
21時30分、消灯の時間です。病室の明かりが消され、入り口のポーチライトのみとなります。
患部の痛みのためなかなか寝付けずTwitterを眺めていましたが、また徐々に痛みが強くなってきたのでナースコールを押します…が、前回のモルヒネ投与から4時間が経過していないため薬剤を入れてもらえません。そのまま痛みに耐えながら未明まで寝たり起きたりを繰り返しつつ、激動の入院生活1日目を終えました。
入院2日目
2日目は『Good morning. breakfast!』の声で目が覚めました。時計を見ると朝の6時前。
寝ている間に少し痛みは和らぎ、昨日ほどのつらさはありません。が、昨日の夕方からの熱はまだ引かないままで体力的に消耗しきってしまい、ベッドを起こす気力もありませんでした。ようやく朝食に手をつけたのは9時を少し回った頃。おそらく昨日の昼食と同じ、お肉入りの雑炊でした。すっかり冷めちゃったけどそれでも美味しい。

食事のあとはこのような錠剤を飲みます。Leftoseと書かれていました。効能を調べてみると気管支拡張のお薬のようです。
薬を飲み終わるとすぐに朝の消毒の時間。昨日と同じように淡々と消毒されていきます。この時なぜか出来たての擦り傷を消毒した時のような種類の痛みを感じました。昨日の消毒時にはなかった痛みです。少しずついろんな部分の感覚が戻り始めているのかもしれません。
しばらく微睡んでいると昼食が届けられます…が、やはり消耗しきっていてすぐに食べ始めることができません。14時前になってようやく手を付けます。

この日の昼食はやよい軒の肉うどんです。味が濃い目で少しスパイシー。美味しい。ゆっくり少しずつ口に運んでいきます。完全には食べきれなかったものの、昨日よりは調子がいいかも。
昼食とは名ばかりのほぼ間食が終わると午後の消毒の時間。その後は少しまとまって寝ることが出来たようで、気が付くと時刻は18時を回っており、テーブルの上には昨日と同じ小箱が置いてありました。

2日目のおやつ。昨日とジュースの味が違うだけ…かな?
昨日に比べると、下腹部に鉄球が入ったような重い痛みはいくらか軽くなり、少しずつ寝返りを打てるようにもなってきました。膝を立てているとさらに若干痛みが和らぐようにも感じました。同時に、お尻の下にシートが敷かれているため汗がびっしょりでなんとも言えない気持ち悪さに悩まされるようになりました。
この日も21時30分に消灯。寝る前に看護師さんが点滴のパックを交換していきました。新しい薬液が少しずつ腕の中に入ってくるのがわかります。冷たくて気持ちいい…
血圧測定と検温を済ませ、おやすみなさい。外からは土砂降りの雨音が聞こえ、時折カーテン越しに雷光が見えました。
薄暗い病室の中で、SRSまで辿り着けた喜びを噛み締めながら、頭まで布団を被って静かに涙を流していました。
入院3日目
昨日の夜お布団に潜った時点から、2時間ほど眠る→起きるをお昼前まで繰り返し、合間合間に朝食、消毒、体の清拭、着替えなどを挟んでいる感じでした。
夜中から未明にかけて、タイにやってきて初めての夢を見ていました。見知らぬ男の人にぎゅーっと抱き締められているようなものでした。何とも言えない幸福感と、目が覚めてきてからの寂しさで少し泣いていました。
朝食にはパスタが出ましたが、かなり少なめの量であるにもかかわらず食べきることが出来ません。

入院初日のほうが心なしか食欲があったような…
この日は患部に繋がっている血液排出ドレーンが抜去される日です。朝の消毒が終わった後、続けて看護師さんが『リラーックス、ワーンツー…スリー…』と言いながら、膣口と肛門の間くらいにふたつ繋がっているドレーンを1本ずつ抜いていきます。傷口にアイスピックのようなものを刺されてグリグリ抉り取られるような壮絶な痛みが間髪を入れずに2回やってきます。あまりの痛さに腕が勝手にガクガクと痙攣を起こすほどです。『オワリネー』と言われた後も1分くらい手の指の震えが止まらないくらい余韻の残る痛みでした。
さて、入院生活も3日目となってくるとそろそろアレがやってきます。SRS後初めての排泄です。しかしまだ安静のためベッドから降りることはできません。ではどうするのかといえば、お尻の下に金属製のオマルを敷いてもらい寝たままの状態でしなければいけません。私は残り少ない羞恥心をかなぐり捨てて排泄を行うのでした…
しばらくするとはるみさんがやってきて、私の患部をじっくりと観察しています。『今日で3日目だっけ。割と綺麗なほうだねー』とのこと。少し胸を撫で下ろす私。
この日の昼食はなんともヘビーな、やよい軒のカツカレー。

カレーが好物の私、普段の体調なら嬉々として飛びつくのでしょうが、この日はいつにも増して食欲がなく、少し口に運んだだけでギブアップしてしまいました。まだ点滴も抜けてないしふらふらだし…
この後はいつものおやつと午後の消毒の時間です。ドレーンが抜けているので、昨日までと比べると若干体が動かしやすいです。
夕食は牛丼です。タイって牛肉OKだったっけ?

やはり半分ほど食べてギブアップ。お薬を飲みます…
20時半ごろになると、この日帰国するMTFさんが挨拶とお見舞いにきてくれました。初日に一緒にご飯を食べに行ったメンバーの一人です。
今後使用することになるであろう消耗品を引き継ぎます。今まで代々引き継がれてきては買い足されてを繰り返してきたものらしいです。
そして、一緒に渡されたぬいぐるみがすごくかわいい!

思わずその場で抱き締めてしまう可愛さ!『絶対日本に連れて帰る!』と心に決めました…
この日は夜に点滴も外れると聞いていたのですが、最後の1パックと思われる薬液がなかなか落ち切らず…

結局日が変わって1時前、薬液がすべて落ち切っているのを確認してナースコールして抜いてもらいました。この時点で私の体に繋がっているのは尿カテーテルのみとなり、だいぶホッとしたのもあって、この日は比較的スムーズに眠りに落ちていきました。
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