性別適合手術とは「性同一性障害に対する包括的治療の臨床的研究」の第3段階の治療法です。第2段階までの継続的治療にもかかわらす、その治療では限界があり、性器に関わる手術療法が必要と判断された患者さんに行う治療法です。

このステップで言う外科的療法には、性別適合手術を含みますがそれだけではありません。それについては、詳しく次の章で説明します。
目次
MTFに対する性別適合手術(性転換手術)とは
性別適合手術には、性器に対する手術と、性器以外に対するものがあります。
性器に対する性別適合手術とは、性同一性障害と診断された人が心の性の肉体的特徴により近づけるよう、形態を変える目的で性器に対して行う手術を意味します。陰茎(ペニス)切断術、精巣(こう丸)摘出術、膣形成術等がこれに含まれます。また性器以外に対する性別適合手術はのど仏や乳房に対して、より女性的に見せる目的の手術をいいます。
これらの手術は、1930年代から行われた記録がありますが、1960年代から広く世界各地で行われるようになりました。手術の結果に対しては、手術の結果に満足している者の割合が、初期の報告において71%、最近の報告においては87%であるとされています。
MTFに対する性別適合手術の原則について
性別適合手術を受けるに当たり、以下の事項を十分理解していただく必要があります。
- 性別適合手術とは、性同一性障害と診断された人か、反対の性の肉体的特微により近づけるよう、形態を変える目的で、性器や乳房などに対して行う手術を意味します。
- この手術は、あなたの生物学的性(身体の性)と性の自己意識(心の性)が一致しないという内面的苦悩を少しでも軽減するために行われるものであって、これまで受けてきた精神療法やホルモン療法にもかかわらす、あなた自身が強く手術療法を希望される場合に限って行われます。従ってあなたが、あなた自身の責任のもとで決断されることが必要不可欠です。
- 手術療法は、性同一性障害の治療の一部であり、手術を受けさえすればあなたがこれまで悩み苦しんできたことの全てが解決するわけではありません。手術のみに過剰な期待を抱かす、これまでと同様に地道な解決の努力を続けることが必要です。
- 手術によって切除した性器は決して元に戻すことはできす、生殖能力は永久に失われます。
- 手術によって女性と同じ身体になれるわけではなく、女性の身体になるべく似かよった形に近づけるに過ぎません。女性としての生殖能力が得られるわけではなく、排尿機能、性的機能、性的快感が女性と同様に得られることは困難です。
- どういう手術を行うかは、あなた自身と形成外科医、精神科医との話し合いによって決定されます。
- 性別適合手術においても他の一般外科手術と同様に麻酔(全身麻酔)及び手術作により生じる種々の合併症があり得ます。このため予定した以外の手術、投薬、治療が必要になることがあります。また、医学と手術技術の知識の増加にともない、これ以外の追加治療が行われることもあります。
- 手術の結果については、最善となるように努力しますが、医学という人間を対象とした分野では明確な保証はありません。
性器に対する性別適合手術の実際と合併症等について
陰茎切断術、精巣摘出術について
男性性器である陰茎を切断し、男性ホルモンを分泌する精巣を摘出し、女性らしい外観に近づける手術となります。これと同時に陰核(クリトリス)形成術と新尿道ロの作製を行います。
方法
まず陰茎を切断しますが、この時神経や血管を付けたままの亀頭を一部残して陰核形成に利用します。また陰茎尿道を一部残して新尿道口に利用します。陰茎海綿体は全部摘出します。次いで両側精巣を摘出します。
手術に伴って起こり得る問題
手術後は排尿を坐位にて行うようになります。尿道が短くなるため、尿失禁、膀胱(ぼうこう)炎を起こしやすくなる可能性があります。また尿の飛び方は一定ではありません。形成した陰核が知覚麻痺、知覚過敏、壊死(無くなってしまう)することがあります。
情巣摘出後は、男性ホルモンレベルが低下するために、精のう・前立腺(精液を分泌する器官)は萎縮します。ただ副腎由来の男性ホルモンがありますので、完全な萎縮はありません。
前立腺がんの可能性:若年者で精巣を摘出した患者での統計はありませんので予測は不可能です。
膣形成術について
より女性らしい外観に近づけ、膣を使った性交を可能にします。
方法
通常は陰茎の皮膚や陰嚢の皮膚を組み合わせて形成します。
筒状陰嚢皮弁法(〇〇大学独自の方法)
陰茎の皮膚で会陰部(大陰唇にはさまれる部位)を形成し、陰嚢の皮膚の一部を筒状にして膣の内張をし、残りの陰嚢の皮膚で大陰唇を形成します。このため既に精巣摘出術を受けていて陰嚢が萎縮していたり、極端に陰茎の短い方では外観や膣の深さに支障が生じることがあります。また手術後に膣が萎縮するのを防ぐために、約6ヶ月間はプロテーゼ(シリコン製などの拡張器)を入れて拡張する必要があります。
注記:参考までに反転法の手術動画を貼ります。出血があるので閲覧注意です。
手術に伴っておこり得る問題
- 手術創の問題
- 皮膚縫合部が開いてしまったり、壊死になって潰傷を生じる可能性があります。
- 膣の狭窄、萎縮
- 筒状にした陰嚢の皮膚が壊死(だめになる)になり、膣が浅くなったり狭くなったりする可能性があります。場合により、追加で遊雕植皮(薄い皮を植える)を行うこともあります。
- 手術部位の疼痛、腫張、皮膚の変色
- 手術を行った部位には、必す傷跡が残ります。これは手術後の経過 で怪減してきますが、完全にはなくならないことがあります。
- 瘢痕
- 手術をした部位は、必ず痛み、腫れ、皮膚の色の変化が起こります。これは手術後の経過で軽減していきますが完全にはなくならないことがあります。
- 知覚麻庫
- 手術を行った部位、神経の切除を行った部分には、知覚の麻庫が生じ、これは手術後次第に軽減してきますが、若干の麻庫が残ることがあります。
- 膀胱・直腸の障害
- この手術は膀胱と直腸に近い部位を操作するので、膀胱または直腸に障害を及ぼす可能性があり、まれに、術後穴があき尿や便が宿から漏れる可能性があります。その場合一時的な人工肛門を作製する事があります。
- 下褪の神経麻庫、筋肉障害
- 長時間にわたる砕石位(カエル股状態)をとるため、足置き台で下腿が圧迫され、神経麻庫や筋肉障害が起こる可能性があります。もちろんこれを予防する最善の処置をとります。
- その他
- この紙面では記載していない予期せぬ種々の問題が生じる可能性がありますが、それぞれに最善を尽くして対処します。また手術によると思われる合併症の症状が出現した場合は、すぐに担当の医師にお知らせくたさい。また、手術の前後、手術によって生じる身体的変化、随伴症状、社会生活上の変化、家族や友人との関係、性的間題など治療について心配なことがありましたら、まず精神科医師にご相談下さい。
麻酔について
入院後に、麻酔を担当する医師が、直接あなたに説明します。その内容を理解した上で同意してください。
輸血について
可能性は低いですが、治療に輸血が必要なことがあります。
ホルモン療法の一時中止について
ホルモン療法を注射で行っておられる患者さんは手術日の1カ月半前から、飲み薬を服用されている患者さんは1ヶ月前からホルモン療法を中止していただきます。これは血栓症等の合併症の危険性を少しでも減らすために行うもので、必す中止してください。なお、手術の後は全身状態が安定する術後1週間を目安にホルモン治療を再開します。
入院期間と費用について
入院期間は、標準的には約20日間です。合併症などによって延びることもありえます。
これらの手術と合併症の治療を含めた入院中のすべての処置に関して、現在は健康保険診療の適応になりません。当院での自費診療の規定に従って費用がかかります。費用は最低に120万円から140万円程度になります。手術方法や入院期間、合併症の有無により金額は異なります。
費用のなかには次のようなものが含まれます。
- 診療費、人院費、看護料、食事療養費
- 薬剤、治療材料費
- 入院中の血液およびレントゲン検査の料金
- 麻酔に要する費用
- 手術費用
- 手術後の処置に督要な器具などの費用
- 個室室料
- 合併症が起きた場合に要する費用
術後経過観察の必要性について
性別適合手術が終了しても、性同一性障害の治療は続きます。術後は精神科・形成外科・泌尿器科・婦人科に定期的に通院していただき、各科の専門医に術後の経過を診察してもう必要があります(追加修正手術が必要になる場合も考えられます)。
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